青春

5月27日、県体の最終日。

 

 

昼間に仕事を抜け出して、県体を観に行った。

 

 

 

私が陸上をしていたこともあって、陸上部の高校生がたくさん整体に来てくれる。

 

 

 

今年で引退の3年生も何人かいるから、最後くらい応援にいかねば。

 

 

 

向かった先は、私にとって聖地、春野陸上競技場。

 

 

 

 

 

ここで自分の人格が出来上がった。

 

 

と言っても過言ではない。

 

 

 

 

地べたを這いつばって、砂を噛むような思いをした。

 

 

 

 

 

初めて優勝して表彰台にあがったときは、全身に鳥肌がたって感動した。

 

 

 

 

春野陸上競技場は、私をどん底まで叩き落とした悪魔であり、強く鍛えてくれた神様でもある。

 

 

 

 

 

 

今日もどんなドラマが待ち受けているのか。

 

 

 

聖地に到着。

 

 

 

 

なんといっても陸上はリレーが花形である。

 

 

 

 

県体のフィナーレを飾るのは、マイル(4×400m)と決まっている。

 

 

 

 

各校の代表4人の選手が、400mずつ走るこのレース。

 

 

 

チームのプライドと総合力が試される。

 

 

 

6位までにはいれば、四国大会の切符を手にする。

 

 

 

さらに四国大会で上位にはいれば、インターハイが待っている。

 

 

 

 

各校の応援も熱がはいる。

 

 

 

私も手に汗にぎる。

 

 

 

『ヨーイ・パン』

 

 

 

ピストルが鳴った。

 

 


各チーム目まぐるしく順位が入れ替わる。

 

 

 

走者は各校の代表。

 

 

いくつもの種目を予選・決勝と走っているから、最後に走るリレーはヘロヘロだ。

 

 

 

でも凄い迫力。

 

 

 

 

 

いよいよアンカーにバトンが渡った。

 

 

 

ここは各校のエースが走る。

 

 

 

レースも終盤のとき、事件が起きた。

 

 

『なんと(;゚Д゚)』

 

 

ゴール目前で、ある選手がバトンを落とした。

 

 

 

必死でバトンを拾いゴールしたが、もう遅かった。

 

 

2着のゴール目前でバトンを落とし、7着となった。

 

 

もう四国大会にもいけない。

 

 

 

 

 

彼はゴール付近で両膝をつき、頭を抱え込んだ。

 

 

 

チームメイトもショックを隠しきれず、うなだれていた。

 

 

 

3年生は、県体が引退試合になる場合が多い。

 

 


他の3人もこのリレーに懸けていたんだろう。

 

 

 

 

そして、目の前で、こんな形で夢が断たれた。

 

 

『彼を独りにすんな!』

 

 

私は心のなかで叫んだ。

 

 

 

 

 

 

少しして、チームメイトが立ち上がり、一番ショックを受けているアンカーの彼へ駆け寄った。

 

 

 

 

彼に声をかけ、立たせて、4人で輪になって泣いている。

 

 

 

 

優勝したチームも、敗北したチームも、みんなで抱き合って泣いている。

 

 

 

 

こんな仲間。

 

 

 

 

こんな経験。

 

 

 

 

もう2度とないだろう。

 

 

 

 

 

 

スポーツの世界では、大舞台で不意に神様がイタズラをするときがある。

 

 

 

 

今回はたまたま彼だったのだ。

 

 

 

聖地だから、いろんな試練を与えるのだ。

 

 

バトンを落とした彼よ。

 

 

 

大丈夫だよ。

 

 


ダイジョブ ダイジョブ

 

 

 

なぜ分かるかって?

 

 

 

私も彼と同じような傷を負っている。

 

 

しかも傷は一つではない。

 

 

 

 

 

心配すんな。

 

 

 

あと何年かしたら、今日のことをサカナにして、仲間と酒が飲める日がくるさ。