果報は寝て待て

果報は寝て待て

 

 

とは

 

 

幸福の訪れは人間の力ではどうすることもできないから、焦らずに時機を待て。

 

 

という意味らしい。

 

 

 

 

 

第2子の、出産予定日の3日くらい前は、

 

 

『今日かもしれない。』

 

 

とヨメと二人でピリピリしていた。

 

 

 

 

 

 

第1子である娘は、予定日の2日前に産まれたのだ。

 

 

 

だから、第2子もそれくらいで産まれると思っていたのだ。

 

 

 

 

 

3歳の娘には

 

 

『赤ちゃん明日産まれるからね。』

 

 

と毎日言っていた。

 

 

 

 

 

『明日産まれる気がする。俺の予感は当たる。』

 

 

とか毎日言っていた。

 

 

 

 

 

うちの実家からは

 

 

『まだ?』

 

 

と2日に1回、催促の電話が掛かってきた。

 

 

 

 

 

それが、予定日を3日も過ぎると、私もヨメも緊張の糸がプツリと切れてしまった。

 

 

 

なーんだ。

 

 

 

産まれないじゃん。

 

 

 

て感じ。

 

 

 

 

 

予定日超えも4日・5日目となると、

 

 

『ヨメの想像妊娠だったのかも』

 

 

とすら思うようになった。

 

 

 

 

 

 

このまま3人の生活が、永遠と続く気がした。

 

 

 

この3人の生活が愛おしいとも思った。

 

 

 

 

 

 

ニュースで

 

 

『戦後最大級の、超大型台風が接近しております。』

 

 

 

て言うけれど、

 

 

 

いざふたを開けてみたら

 

 

 

なーんだ。

 

 

 

たいしたことないじゃん。

 

 

 

て思う。

 

 

 

そんな拍子抜けの状態である。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、ニュースで騒がなかったときほど、凄い大雨がくるもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

8月3日、日曜日。

 

 

 

大雨の影響で、店のまわり一体が浸水した。

 

 

 

うちの店の前の道路は、ひざの上まで浸水。

 

 

 

店のすぐ後ろの建物は、太ももまで水がきていた。

 

 

 

しかし、うちの店の建物は若干高台になっていて、浸水はギリギリ免れた。

 

 

 

 

だが、その日の予約のお客さんは、すべてキャンセルしてもらった。

 

 

 

店まで来ると、きっと車のエンジンがダメになるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

よく見ると、店の前で10分以上動かない車がある。

 

 

 

 

声をかけると、エンジンが止まっているうえに、ドアも開かないらしい。

 

 

 

そりゃそうだ。

 

 

 

水位が車のライトの下まできている。

 

 

 

どしゃぶりのなか、水没して動けなくなった車を、何台か水位の低い場所まで押して救助した。

 

 

 

とは言っても、その車はもう乗れないだろう。

 

 

 

 

 

周変一体がパニックになっているなか、自分の店は無事だったので精神的に余裕があった。

 

 

 

この日は少し、人様の役に立てた。

 

 

 

 

 

 

 

産まれてきた赤ちゃんが、大きくなった頃、

 

 

 

『おまんが産まれてくる直前に、こんなことがあったがぜよ。』

 

 

 

と教えてあげようと思い、写真を何枚か撮った。

 

 

 

 

きっと10年もしたら、

 

 

 

水害は3割増し、

 

 

 

私の武勇伝に至っては3倍増しの規模で、

 

 

 

この日の出来事を子供に語っているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

その肝心の赤ちゃんは、いつ会えるのか。

 

 

 

 

きっと赤ちゃんは、最後の3人の生活を満喫させてくれているんだろう。

 

 

 

 

ある日突然、3人の生活が一変する。

 

 

 

ある日突然、家族が4人になる。

 

 

 

 

 

その日まで楽しみに

 

 

 

果報は寝て待つことにする。