説得力

私は定期的に歯医者へ行く。

 

 

虫歯があるわけではないが、メンテナンスというやつだ。

 

 

普段は歯の治療であれば院長が、お手入れだけなら歯科助手さんがしてくれる。

 

 

前回行ったときは、若手の先生が診てくれた。

 

 

 

 

 

今年になって見かけるこの若い男性。

 

 

やりとりを見るに、院長の息子さんだろう。

 

 

 

 

普段メンテナンスに行ったときは、歯垢をとって磨くだけ。

 

 

しかしこの日、若先生が

 

『右の奥歯の詰めていたやつが、古くなっている。』

 

 

『ここは削って新しいやつにしておきます。』

 

 

と言って治療してくれた。

 

 

 

 

 

それから数か月経つが、噛みしめたときにやや違和感が残る。

 

 

今回歯医者へ行ったとき、その旨を若先生に伝えた。

 

 

 

 

若先生『うーん。これはここに歯垢が溜まっているせいかもしれない。』

 

 

 

『高さが合っていないのかな?』

 

 

『いや、合っている。』

 

 

『うーん。』

 

 

『削った分、歯茎に当たる面積が増えたかかな?』

 

 

『違和感かぁ』

 

 

『Aの可能性もあるけど、Bの場合もある。』

 

 

『でも、Cかもしれない。』

 

 

『あーでもない。こーでもない。』

 

 

『ここだけレントゲン撮ってみますか?』

 

 

『うーん、でも見た目は正常だしな。』

 

 

『これだとレントゲン撮ってもわからないだろうなぁ。』

 

 

『(改めて)レントゲン撮ってみますか?』

 

 

 

 

坂本『レントゲン撮っても分からないんですよね(^^;』

 

 

坂本『ならいいです。』

 

 

 

 

 

 

若先生よ。動揺し過ぎだ(;゚Д゚)

 

 

 

ほんのちょっとの違和感だよ。

 

 

 

 

 

自分が患者になってみて、初めてわかる。

 

 

 

 

患者が欲しいのは、丁寧な説明ではなく先生の自信だ。

 

 

 

 

Aでもない。

 

 

Bでもない。

 

 

Cかもしれないし、

 

 

Dかもしれない。

 

 

レントゲン撮る?

 

 

撮っても分かんないけど。

 

 

 

これでは患者は不安になる。

 

 

 

 

 

父上である院長ならきっとこう言ったはずだ。

 

 

『削った分、気になるだけだよ。』

 

 

『そのうち馴染むよ。』

 

 

 

私はこれで、右奥歯の違和感は全く気にしなくなっただろう。

 

 

 

 

 

百の説明よりも、一の説明の方が説得力のある場合がある。

 

 

 

 

 

私も患者さんへの説明は、

 

 

『短くシンプルに』

 

 

と心掛けている。

 

 

 

 

 

『腰が痛いのは、骨盤がズレているせいですよ。』

 

 

 

『ほら、こんなにズレてる。』

 

 

 

てな感じ。

 

 

 

 

『腰痛はねぇ、骨盤がズレたら腰椎の負担になるし。』

 

『足のゆがみや股関節のねじれが原因の場合もあるし。』

 

『腎臓が悪い場合もあるし、そもそもストレスから腰痛になる人もいるし。』

 

『ヘルニアとか分離症があるのかな?』

 

『今度レントゲン撮ってみる?』

 

『でもレントゲンに写らない場合もあるしなぁ。』

 

『首のゆがみから腰痛になる人もいるし、おなかの緊張の場合もあるよ。』

 

『筋肉性だとすぐ良くなるけど、関節だとちょっと時間が・・・』

 

『椎間板の損傷があったら数年はかかるかも』

 

 

 

こんな説明なら、治るものも治らない。

 

 

 

実はこれ、数年前の私である。

 

 

 

 

途中から説明してるんだか、言い訳してるんだか分からない。

 

 

 

 

もちろん今でも、場合によっては詳しく説明するし、

 

 

分からないものは分からないと言う。

 

 

 

 

ただ、患者さんは痛みだけでなく、不安も抱えてやってくるのだ。

 

 

 

だから、説明のときは内容よりも

 

 

自信を伝える。

 

 

 

これだけは意識するようにしている。