救世主

 

『知らないおじさんに付いて行ってはいけません。』

 

 

と、学校で教わってから、小1の長女が一人で学校へ行けなくなった。

 

 

長女は、誘拐される夢を見たとか訳の分からないことを言っている。

 

 

一人で行かそうとすると、

 

『怖い〜。゚ヽ(*゚´Д`゚)ノ゚。

 

と泣き崩れる。

 

 

泣き崩れのまま一人で行かすのはさすがに危ないので、一緒について行く。

 

 

 

 

困ったものだ。

 

 

だが、私がいつまでも付いて行くわけにもいかない。

 

 

 

 

 

 

私と長女が玄関をでると、いつも散歩している60代おぼしき夫婦に会う。

 

 

いつも長女と元気に挨拶を交わす間柄だ。

 

 

 

その老夫婦は散歩の途中、いつも道端で立ち尽くし、心配そうにある方向を凝視する。

 

 

通学している孫を見守っているのだ。

 

 

どこの保護者も心配なのは一緒なんだな。

 

 

 

 

 

その孫は、長女と同級生のA子ちゃん。

 

 

よく長女と道端で合流して、一緒に通学する仲だ。

 

 

A子ちゃんは物静かでしっかりした子である。

 

 

お調子者の長女がちびまる子なら、A子ちゃんは親友のたまちゃんだ。

 

 

長女と待ち合わせして一緒に登校して欲しいが、たまちゃんの家が分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『じゃあ、2月までね。』

 

 

2月からは一人で行くんで。』

 

 

『もうすぐ2年生やきね。』

 

 

 

私と嫁さんは通学に付き添う期限を設けた。

 

 

 

 

 

 

 

一人で通学する約束の前夜。

 

 

 

 

なんだか長女は余裕である。

 

 

 

訳を聞くと、近所の小学3年生のB子ちゃんに、学校へ一緒に行ってくれるよう約束してあるのだとか。

 

 

でかした長女。

 

 

一人で学校へ行く。

 

 

という約束は達成できてないが、自分でちゃんと代案を手配してある。

 

 

私は嬉しかった。

 

 

少したくましくなったな。長女よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝。

 

 

いつもより早く支度して、何度も玄関へ3年生のB子ちゃんが来ていないか見に行く長女。

 

 

だが待てど暮らせどB子ちゃんは来ない。

 

 

『お父さんB子ちゃんが来んで〜』

 

 

長女は今にも泣きそうだ。

 

 

B子ちゃんを探しに家の周りをウロウロする長女。

 

 

結局、その日は通りかかった同級生の男の子と一緒に行った。

 

 

 

 

B子ちゃんは、次の日もその次の日も来なかった。

 

 

たぶん、B子ちゃんは気が進まなかったんだろう。

 

 

 

 

長女はなんだが毎朝憂鬱そうだった。

 

 

約束が違えることなんて、大人の世界でもよくある。

 

 

えげつないほどよくある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなある日の朝。

 

 

『ピンポーン♪』

 

 

我が家のチャイムが鳴った。

 

 

ドアを開けると、たまちゃん(A子ちゃん)が立っていた。

 

 

救世主だ。

 

 

たまちゃんのお婆ちゃんが一緒に登校するよう、たまちゃんを連れて訪ねて来てくださったのだ。

 

 

毎朝長女が会うたびに挨拶をするから、家を覚えてくれていたのだ。

 

 

たまちゃんも、一緒に登校する相方を探していたのだとか。

 

 

 

 

 

 

その時、長女はまだパジャマだった。

 

 

急いで着替えて、家を飛び出して行く長女の顔は、歓喜の表情であった。

 

 

それから毎日、たまちゃんと手を繋いで一緒に学校へ行っている。