水筒と墨汁

 

我が家には、代々伝わる3つの家訓がある。

 

 

1つ、おだやかな道とイバラの道の2通りがあれば、イバラの道を進め。

 

 

2つ、いかなる戦争においても自分のために闘うな。人々のために闘え。

 

 

3つ、お習字の日は、黒い服を着ていくべし。

 

 

 

 

 

 

4の長女が、一番大事な家訓『その3』の禁を犯した。

 

 

 

ある日の朝、今から学校へ行くという時間に事態が発覚した。

 

 

長女の服の右肘に、バッコリ墨汁が付いていた。

 

 

しかも、長女が一番気に入っていた辛子色のカワイイ服にである。

 

 

 

 

 

なぜお習字の日にこの服を着て行ったのか?

 

 

なぜ服に墨汁がついたのを黙っていたのか?

 

 

問いただしても、まるで政治家のように曖昧な答弁をする長女。

 

 

 

 

 

ここで注目するべきは、一度洗濯機にかけても墨汁は全く落ちていない。

 

 

という事実だ。

 

 

とりあえず長女は着替えさせて、学校へ行かせた。

 

 

 

 

 

もう私も出勤しなければならない時間だったが、 服と闘うことにした。

 

 

私は長女の服にお湯をかけて、石鹸でゴシゴシ洗った。

 

 

大丈夫。

 

 

なんとかなる。

 

 

 

 

 

辛子色の服は、長女が音楽会にも着たお気に入りの服だ。

 

 

来年は次女が着る予定の服だ。

 

 

ここで辛子色の服を断念するわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

この墨汁事件の前日。

 

 

新しく購入した、長女の水筒が届いた。

 

 

長女はこの水筒をたいそう気に入って、頬ずりしていた。

 

 

その日のうちに、私が誤って水筒をコンクリに落としてしまった。

 

 

水筒には大事なところに傷がついた。

 

 

私の心にも傷がついた。_| ̄|○  ガーン

 

 

 

 

 

いっそのこと、水筒が粉々に破壊された方が、新しいやつにスパッと買い替えて気持ちが楽だった。

 

 

でも長女は、この傷がついた水筒を大事に使うと言ってくれた。

 

 

 

 

 

じゃあせめて、お気に入りの服の墨汁はなんとかしてあげたい。 

 

 

水筒の傷は、いくらこすっても消えないが。

 

 

服についた墨汁は、頑張ってこすれば消えるんじゃないか?

 

 

そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家訓にもあるでないか。

 

 

迷ったときはイバラの道。

 

 

闘うときは人のため。

 

 

私は長女のために、墨汁と闘う道を選んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

苦闘の末、奇跡的に墨汁の色はかなり見えなくなった。

 

 

というか、どこに墨汁があったか分からないレベルだ。

 

 

 

 

 

 

私は晴れやかな気持ちになった。

 

 

新しい服を買っても、こんな気持ちにはれなかっただろう。

 

 

子供たちも、闘う父の背中を目に刻んだはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに。

 

 

みなさん薄々気づいていると思うが、家訓の最初の2つは、キン肉マンにでてくる

 

 

『キン肉王家3つの心得』

 

 

から引用している。

 

 

 

キン肉マンの兄であるアタルが、フェニックスとの闘いに敗れ、死ぬ直前に弟のキン肉マンに贈った言葉である。

 

 

素晴らしい心得なので、ぜひ毎朝家族で朗読してほしい。