一匹狼

 

私が若手のころ。

 

 

まだカイロプラクティックを始めようなんて微塵も思っていなかったころ。

 

 

なにをしようか決まってなかったけど、とにかく自分で独立して経営者になる気だけは満々だった。

 

 

 

 

 

 

私は中途採用で、ある会社に入社した。

 

 

飲食店のチェーン展開を仕掛ける会社だ。

 

 

いわゆるコンサル業だ。

 

 

お店のノウハウをクライアント企業に提供するお仕事だ。

 

 

 

 

 

店長に業務指導をしたり、

 

 

新しいメニューの開発をしたり、

 

 

コスト計算のソフトを作ったり、

 

 

新しいお店の立地調査をしたり・・・

 

 

といった具合である。

 

 

 

 

ここで経営のノウハウを学んで、いつか自分で会社やお店をやりたいって人達がこの会社に集まる。

 

 

私も、もちろんお店の経営を学ぶ為に入社した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入社した時に、東京の本社で2週間ほどの中途採用者専用の研修を受けた。

 

 

この研修が心が折れそうになるような、逃げ出したくなるような研修だった。

 

 

 

 

 

毎日宿題は出るし。

 

 

みんなを相手にプレゼンするのは当たり前。

 

 

プレゼンでは、同僚から容赦なく突っ込みはくるし。

 

 

否定論者で毎回のように論破しにくる奴だっている。

 

 

自分の意見に対して全員から『NO』を突き付けれられる時もあった。

 

 

ボロボロのプレゼンになっても、心が傷ついても途中で辞めることは許されない。

 

 

 

 

 

 

経営者というのは孤独なもので、最後は自分で決断せねばならぬ。

 

 

『自分で答えを導く。』

 

 

というのをここで叩き込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

人の意見を聞くのは大事。

 

 

でも自分の意見はもっと大事。

 

 

だって経営者なんだもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて休憩時間になると、男性社員がこぞって喫煙所に集まるようになった。

 

 

タバコを吸う人も、吸わない人も、新人男性社員15人全員が集まる。

 

 

 

 

 

まるで、

 

 

『休憩時間はそこで過ごさなければならない。』

 

 

という決まりがあるかのようだった。

 

 

 

 

 

 

私も、もちろんその中にいた。

 

 

みんな不安で不安で、押し潰されそうなんだったろう。

 

 

次の課題について。

 

 

昨日の宿題の出来栄え。

 

 

なんでこの会社へ入ったか。

 

 

自分の配属先の仕事内容。

 

 

みんな情報交換をしては、ひと時の安らぎを共有した。

 

 

 

 

 

 

 

私はある時から、喫煙所へ行かなくなった。

 

 

そこに居ては、経営者になれないと思ったからだ。

 

 

 

 

 

 

休憩時間も一人だけ会議室に残り、次の課題レポートを作った。

 

 

みんなから見たら、浮いた存在になったかもしれない。

 

 

でも、友達を作りにここにいるんじゃない。

 

 

 

 

 

経営力を身につける為に、ここにいる。

 

 

この研修はノウハウ(方法論)ではなく、胆力(精神力)を身につける目的の研修だと私は解釈した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなに囲まれた安らぎよりも、孤独でも一人で前に進む力を身につけねばと思った。

 

 

この時に一匹狼で生きていく決断をした。

 

 

 

 

 

 

 

その後、さかもと整体院を開業。

(のちに坂本カイロプラクティックに改名)

 

 

独立してからは、友達ともめっきり飲みに行かなくなった。

 

 

従業員はなし。

 

 

どうやら一匹狼が私の性に合っているようだ。